美しい湖畔に、美味しいれんこんあり。


れんこん農家 野口勝弘さん


野口さんのお宅から歩いて約1分。

日本で二番目に大きな湖・霞ヶ浦の湖畔に広がる蓮田は、息を呑むような美しさだった。青々とした大きな葉の間に、白い花がポツポツと顔を出す。そこに立っているだけで、心が洗われるような、そんな景色が広がっていた。




これだけは間違いない。「れんこんは、新鮮なほど美味しい」


霞ヶ浦流域はれんこんの一大産地。

茨城県はれんこん生産で全国シェアの半分以上を占めているが、そのほとんどが霞ヶ浦と北浦の周辺で栽培されたものだ。霞ヶ浦の南岸に位置する阿見もまた、茨城県を代表するれんこんの名産地の一つである。


そんな阿見の地で、おじいさんの代かられんこん栽培を行っている野口勝弘さん。会社勤めを経て33歳の時に家業である農業を継ぎ15年以上。ほぼれんこんに特化して作付けしている、れんこん栽培のスペシャリストだ。


「霞ヶ浦の沿岸は、アシなどの殻が堆積してできた泥炭層があり、土が肥えている。それに、水が確実に確保できることもあって、れんこん栽培には最適です。雨が降ると、台地(高いところ)から霞ヶ浦(低いところ)へと水が落ちてきますが、その過程で水が地表に出てきます。これを“しぼれ水”(地下水、湧水の一種)というんですが、豊富なしぼれ水がれんこん栽培の生命線です。それに、大水がきてもある程度は霞ヶ浦が受け止めてくれるから被害が出にくい。すごくいい環境ですよ」


恵まれた環境×ベテランの技術が成す野口さんのれんこんは、食べた瞬間に「違う」。瑞々しく、ほのかな甘みと優しい香り、そして心地よい歯ごたえ。これが本来のれんこんか…と唸ってしまうほど、スーパーで売っているれんこんとはひと味もふた味も違う。



掘りたてのレンコン!



「味の違いは品種にもよるけど、間違いなく言えるのは“れんこんは新鮮なほど美味しい”ということ。噛んだ瞬間に、ちゃんと甘みが感じられるのが新鮮な証拠です。一番美味しいのは堀り立て。できる限り新鮮なものを食べてほしいから、“今日掘ったものを今日出荷する”を鉄則にしています。阿見のれんこんはみんなそうですね。鮮度は世の中で一番だと思います」



野口さんは、なんと16代も続く農家の家系。



一人前になるまで3〜5年。甘くない、れんこん農家への道。


霞ヶ浦では馴染みの風景だが、れんこんの収穫の様子を見たことがある人は案外少ないかもしれない。

れんこんは泥の中で育つ野菜。外からはどこにれんこんがあるのか、まったく見えない状態だ。



しぼれ水で満たされる蓮田。



掘り穫り作業は完全に手作業。深さが膝から腰のあたりほどもある田んぼの中に入り、ポンプの水圧で泥をよけてから、下から水を当ててれんこんを浮かび上がらせて、穫る。水圧でれんこんが傷ついてしまわないように、れんこんに直接水を当てないよう、探りながら強い水圧で、ギリギリのところを攻めていく。



れんこん掘りに使うホース。



聞くだけでも難しそうなれんこん掘り。想像してみても、まったくできる気がしない。上手く掘れるようになるには、どのくらいの歳月がかかるのだろうか。


「掘り穫り自体は1週間もあればできるようにはなりますよ。でも、きちんと掘れて、ある程度まとまった量を穫れるようになるには、俺は5年かかりました。一般的には3〜5年ぐらいでやっと一人前かな。見えないから体で覚えるしかないんです。教えてもらってもわかんないし、教えてもわかんないから、初心者は“とりあえず掘ってみろ”から始まりますね」



取材にも楽しく対応してくれた野口さん!


れんこん掘りは、まさに職人技の世界。

ちなみに例年秋頃に、茨城県が主催のれんこん掘り体験ツアーが開催されており、野口さんの蓮田でも一般の方の掘り穫り体験を受け入れているという。かなり貴重な経験になると思うので、ぜひ参加してみてほしい。そこではまってしまったなら、れんこん農家になるという道も、あるかもしれない!



れんこんの旬とは、いったいいつなのか?


いまや一年中見かけるれんこん。その旬について考えたことがあるだろうか?


野口さんに聞けば、れんこんはそもそも通年栽培の作物であるそうだ。だいたい4月頭から5月終わり頃までが種植えの時期。それを7〜8月頃に掘り始め、次の年の5月中旬くらいまで出荷がある。ほぼ一年中切れ目がない、優秀な作物である。さらに、植えたあとにそのまま1年ぐらい寝かしておくこともでき、収量のコントロールやスケジュール管理が非常にしやすい作物でもある。この点でも優秀だ。




れんこんの花。赤と白の違い。


蓮田に花が咲く頃。白い花に混じって、赤い花が咲いているのを見たことがあるだろうか。実はこれ、農家の「腕」の違いらしい。


「れんこんは、植えたあとに1〜2年ぐらいはそのまま放っておいても大丈夫。でも、3年を超えてくると、先祖返りといって原種に戻ってしまうことがあるんです。赤い花がその目印。れんこんの原種は赤い花が咲きます。れんこん農家では掘り残しはダメですから、赤い花が咲いていたりすると下手くそということになります。だけどね、一番旨いのは、原種なんですよ」



れんこんは、7月中旬と8月中旬に2回花を咲かせる。野口さんの蓮田には、白い花のみが咲いている。



先祖返りは避けたいけれど、本当にうまいのは原種の方。これはいかに?


「原種のれんこんは、香りもいいし、歯ごたえが残ってるのに歯切れはいい。本当に旨いんです。じゃあなぜ原種をやらないかというと、金にならない。それは、長細い形のせいなんです。れんこんは今、丸く太っているのがいいとされていて、長細い原種はいくら味がおいしくても安くしか売れません。それに、蔓がものすごく長く伸びて、岩盤の中にまで入ったりするから、掘る手間は普通のれんこんの3倍も4倍もかかります。それでも売値は安いから、誰もやらない。本当は一番旨いし、掘り手間もかかるから、一番高く買ってほしいんだけどね」



野口さんに聞く、美味しいれんこんの見分け方


れんこんは新鮮なほど美味しい。つまり、農家から直接購入するのが一番なのだが、近くにれんこん農家がいるという、そんな恵まれた環境にいる人は少ないだろう。そこで、スーパーで美味しいれんこんを見分ける方法を野口さんに教えてもらった。


「味そのものは品種にもよるけど、少なくとも鮮度の良いものを見分ける方法はあります。鮮度がいいのは、切り口が白い。れんこんはアクがあるので、時間が経ってそれが表に出てくると青くなる。まだ青いうちはいいんだけど、茶色になったのはダメですね」


品種に関しては、スーパーで見分けるのは不可能と言っていいが、品種による味の違いはかなり大きいそう。


「うちでも早生から晩生までいろんな品種を栽培していますが、今はどの品種もみんな同じ顔になっちゃってるから、顔つきだけで見分けるのは農家でも難しいですね。自分が味的に一番好きな品種は、茨城県の奨励品種にもなっている“ひたちたから”。うちで作っている中でも、甘みと香りが一番強いですね。肉厚で穴が小さいのも特徴です。とにかく食べて美味しいから、メインで作っています」



ただ焼くだけでも美味しい!


野口さんのおすすめのれんこんの食べ方は、ずばり焼くだけ。1cmぐらいの厚みに切って、塩胡椒で味付けし、ちょっとだけ醤油を垂らす。新鮮なものなら皮付きのままで。れんこんは皮にも豊富な栄養が詰まっている。


「簡単な酒のつまみにするなら、ソース炒めも俺は好きですね。ラードで豚肉を炒めて、薄く切ったれんこんを入れて透明になるまで炒めたら、ウスターソースで味を調える。で、最後にごまをかければ完璧です」


夏なら焼酎、真冬なら日本酒と合わせるのが野口さん流。日本酒は、阿見町が産学官連携で開発したミルキークイーンで醸した純米大吟醸「桜翔(おうしょう)」がお気に入りだとか。


皆さまもぜひ、野口さん、そして阿見町のれんこんをつまみに、家呑みをお楽しみください!





<野口さんのれんこんが買える場所>


●かすみの里 農産物直売所

茨城県稲敷郡阿見町追原2383-3

電話:029-889-0881

http://www.amikan.jp/maiami/kasumi.html



●農産物直売所「菜楽園」

茨城県土浦市右籾町2450-12

電話:029-842-3005

https://www.ibaraki-shokusai.net/shop/shops3?id=7306




文/根本美保子(ターバン2号)  写真&動画/Masa Hamanoi